2012年6月21日木曜日

分子標的薬の著効で転移がんが消失

日本人がかかるがんの中で最も死亡率が高い「肺がん」。
「肺がん」と喫煙との関係は指摘されていがタバコを吸わない人にも発生する「肺腺がん」が増えている。肺の奥にできる「肺線がん」は「肺がん」のほぼ半数を占める。初期症状が少なく、喫煙の習慣がない人や女性にも多く発症するがん。

治療は、抗がん剤による化学療法が中心だが、2012年3月「クリゾチニブ」という飲み薬の新薬が承認された。「クリゾチニブ」は肺腺がんの中でも、特定の遺伝子変異のあるタイプの患者に高い治療効果が得られる。

43歳の男性は、「肺腺がん」が発見されてから4年間抗がん剤治療と再発を繰り返してきた。しかし、抗がん剤「クリゾチニブ」を飲んで1週間で元気になり、会社にも毎日行けるようになった。 肺以外にも肝臓や骨、首などに転移がんが見つかっていたが、抗がん剤「クリゾチニブ」を飲んで2週間後には、黒く映っていた転移がんの多くが消えていた。

「クリゾチニブ」は「分子標的薬」と呼ばれるもので近年、世界中で研究が進んでいる。

一般的な抗がん剤は、体全体の細胞を攻撃すると同時にがん細胞の増殖を抑えダメージを与えるのに対し、「分子標的薬」はがんの原因となる遺伝子を突き止め、直接その細胞が死滅するように促す抗がん剤。肺がんだけでなく、白血病や乳がん大腸がんなどの治療に対しても開発が進んでいる。

抗がん剤「クリゾチニブ」は、日本の研究者が「ALK」というある特定のタイプの「肺がん」の遺伝子変異を発見し、ネズミを使った実験で同じタイプのがんを縮小させることに成功した実験結果から誕生した。

しかし、分子標的薬には注意点もある。

世界初の肺がん分子標的約イレッサは間質性肺炎と呼ばれる重い副作用を発症する患者が多く発生し、遺族が国や製薬会社などを訴訟したのだ。承認から2年後の現在では、「イレッサ」は「EGFR」と呼ばれる遺伝子変異のある患者にのみ治療効果があることが判明したため、まず患者の遺伝子変異の有無を調べてから、イレッサでの治療方針を決めるように改良された。

肺がん新薬として脚光を浴びる「クリゾチニブ」も効果が期待できるのは、「ALK」という遺伝子の変異を持つ肺がん患者だけなのだ。この治療適合性があるのは、「肺腺がん」患者のうち約5%。若い世代やたばこを吸わない人に多いとされている。

今後、効果の高い分子標的薬は次々と開発されるが、がん患者への適合性を遺伝子レベルで事前評価するオーダーメード医療、個別化医療の概念が不可欠となるだろう。